水野祐(@TasukuMizuno)のブログ

弁護士ですが、「リーガル・アーキテクト」という意味での法律家というつもりで生きています。Twitter: @TasukuMizuno / Lawyer / Arts and Law / Creative Commons Japan / FabCommons (FabLab Japan) / All tweets=my own views≠represent opinion of my affiliations

顧問契約について

「顧問契約の内容を教えてほしい」というご要望を時々いただくので、「ここを見てください」と言えるように、顧問契約についてのぼくの考えについて簡単に書いてみる。

 

弁護士の契約形態

 

弁護士とクライアント(依頼者・顧客)との契約形態は、大きく分けて2種類ある。

 

1つは、ぼくが「スポット」と呼んでいる形態で、「この契約書をレヴューしてくれ」「こういう契約書をドラフトしてくれ」、「このお金を回収してくれ」、「こういう紛争を解決してくれ」など、案件ごとに単発でのご依頼を受ける場合。

この場合、フィー(報酬)はタイムチャージ(ぼくのいまのタイムチャージは15,000円/h ※2016年4月から20,000円/hになりました)で請求させていただくのが原則であるが、案件によっては、着手時にいただく着手金と終了時にいただく報酬に分けてフィーをいただくこともある。


もう1つは、いわゆる「顧問契約」と呼ばれる形態で、月ごとに一定の顧問料をいただく代わりに、契約書のレヴューやドラフト、法律相談など、様々な法律業務(顧問業務)に対応するという場合である。

 

顧問契約のメリット

 

クライアントにとっての顧問契約のメリットについては、以下のようなものが一般的に挙げられる。

  1. いつでも相談できる(夜間、休日など通常の業務時間外であっても優先的に対応)(△)
  2. 気軽に相談できる(◎)
  3. 普段から密に、継続的にご相談いただくことにより、より的確かつ丁寧な回答やソリューションが提供される(◎)
  4. 紛争の予防、紛争の早期解決になる(△)
  5. 取引先や金融機関、従業員等との関係で社会的信用を増加させる(◯?)
  6. 反社会的勢力の排除の効果(△?)
  7. 訴訟等を受任した場合の弁護士費用の減額(△)
  8. 自社に法務部を設置するよりも安価(法務のアウトソーシング)(◯)
  9. 法務人材の教育(◯)
  10. 司法書士行政書士、税理士などの他の専門家との連携(△)

 

各事項の後ろに◯、△などを記載しているが、これはぼくが本当にメリットなのかどうなのか、という所感を示している。

いずれのメリットも否定はしないが、公平に見て「それって本当に顧問契約のメリットになのかな?」と思うものもなくはない。

例えば、1については、たしかに他の案件よりもできるかぎり優先して着手するようにはしているが、ぼくの場合でいえば、昼夜、土日祝日の区別はあまりないので、いつでも対応しているので、顧問先かそうでないかであまり変わりがない(もっとも、これはぼくの働き方のせいかもしれない)。

夜間、休日でもクライアントが依頼するときに「申し訳ないなあ」とクライアントが思わないことがメリットなんだ、という言い方もあるだろうが、そんな風に思うクライアントはそもそもあまりいないのではないだろうか。その他の事項も今の時代において「顧問契約だからこそ」というものでもないような気がする(5は上場準備のタイミングで証券会社から求められるケースは多い)。

 

弁護士との顧問契約はよく保険に喩えられる。会社の経費としてはそんなに高くはないので、ひとまず入っておくという考え方をするクライアントは一定数いる。

そこで、弁護士サイドは顧問契約のメリットをこぞってアピールするのだが、結局、上記のとおりメリットとして本当にどれだけ実効的なのかは疑問なものも多い。

結局のところ、クライアントから見て、2の価値をどれだけ高く考えるか、というあたりに集約されるのかなあ、というのがぼくの所感である。最近出てきている月3000円くらいの超低価格の顧問契約は、もちろん3000円という金額でも従来の顧問契約のように何でもしてもらえるという契約ではなく、ひとまずこの「気軽さ」だけを低価格で提供して、クライアントを囲い込む戦略と言えるだろう。

一方、弁護士の目線で見ると、3の価値は大きいのかなと思う。クライアントの業務に精通すれば成果物のイメージをしやすく、「この成果物の権利はこっち、後は向こう」と切り分けもできるし、「このクライアントは受託でも成果物の知的財産権は譲渡しない」とそれまでの関係性で把握していれば、その分、素早く、的確に契約書のレヴューができたりする。

 

顧問契約のデメリット

 

では、顧問契約のデメリットはなんだろうか。弁護士の多くはこの点に触れないのだが、フェアではない。

顧問契約のデメリットは、端的に言って、支払っている顧問料に見合っただけの仕事がない場合、お金を支払いすぎてしまうことになる、という点だろう。

感覚的には、毎月1,2通の契約書のレヴューが定期的に発生する場合には顧問契約を検討してもよい時期ではないだろうか。

慣れない人が時間をかけて確認し、不安なままでいるよりは、プロにアウトソーシングしていただいたほうがよいのではないかと思うことは多い。

 

ぼくの顧問契約

 

ぼくの顧問契約は、現在、以下のようなシンプルな内容である。

  • 月額6万円7万円(税別)
  • 月5時間まで稼働
  • 月5時間を超過した部分は、通常のタイムチャージである15,00020,000円(税別)/hを請求させていただく

ぼくのタイムチャージで5時間働くと750,000100,000円になるが、それが6万円にディスカウントされ、15,00040,000円お得になる、というのが、ぼくの顧問契約のメリットである。

上記の通り、ぼくは顧問契約というもののメリットについてまだ自信を持って説明できていないので、クライアントにオススメするためにはこのような明快なメリットを持つ必要があった。

なお、顧問料は、独立1年目は月3万円、2年目は月4万円、3年目は月5万円、今年から月6万円と毎年1万円ずつ上げている。来年は余程のことがない限り月7万円になっているはずだ(そう願う)。

これは設立当初は低価格で事業資金を確保する目的があった一方で、弁護士として毎年顧問料を1万円ずつ上げていくことができるくらい、自らの価値を上げることを課しているという意味もある。

やや特殊な条項としては、

  • ウェブサイトなどで顧問弁護士として水野またはシティライツ法律事務所の名前を公表してよい
  • ぼくもクライアントとの顧問契約締結の事実と関与した案件を公表してよい(ただし、周知になったものに限り)
  • PDFのやり取りで契約成立

というのがあるが、まあ瑣末な話ではある。

詳細はこちらで

 

 

顧問契約を検討する際に注意すること

 

顧問契約をする場合、いきなり顧問契約をするのはおすすめしない。弁護士との仕事も人間関係なのだから、当然のことながら相性がある。その意味では、いきなり顧問契約をすすめてくる弁護士には注意したほうがよいだろう。ぼくの場合、まずはスポットで何件か仕事をやってみて、相性が悪くなくて、毎月一定の仕事があるようであれば、顧問契約を勧めることにしている。

現在のぼくの仕事は、顧問契約をしているクライアントの仕事とスポットのクライアントの仕事がそれぞれちょうど半分くらいだろうか。弁護士業として、顧問契約とスポットの仕事の割合をどうしていくべきか、という点は、顧問契約をできるだけ多くすれば経営が安定する一方で、仕事内容が硬直化しやすいというデメリットもあり、なかなか考えてしまうところではある。

スポットでも長期で信頼関係を築けているクライアントもたくさんいるし、顧問契約ありきではなく、クライアントのためにメリットがある場合にはおすすめするようにしたい。

なお、本ポストで主にイメージしているのは、これから顧問契約を検討する中小企業や個人で、上場準備や上場後の企業はまた別の考慮がある。今後また思うところがあれば書いてみたい。

 


<1/17追記>

 弁護士の柴田健太郎さん(@overbody_bizlaw)から、「個人的には企業にとって顧問契約の一番の意味はスポット依頼たりえないちょっとしたご相談が多くある場合であると思います。」との意見をいただいた。たしかに、スポットとして依頼するか否か微妙な相談にこそ、紛争の早期解決の萌芽があったりするので、なるほどと思った。

<1/17追記>

 弁護士の伊藤雅浩さん(@redipsjp)からも「敵にしたくない弁護士を抱えることができる」というメリットのご意見もいただきました。やっぱりそういう弁護士がいるんですね(別の意味ではいま(以下略))。