水野祐(@TasukuMizuno)のブログ

弁護士ですが、「リーガル・アーキテクト」という意味での法律家というつもりで生きています。Twitter: @TasukuMizuno / Lawyer / Arts and Law / Creative Commons Japan / FabCommons (FabLab Japan) / All tweets=my own views≠represent opinion of my affiliations

新国立競技場の類似問題

新国立競技場ザハ・ハディド案と隈研吾案の類似問題については、大きく分けて「契約違反」、「著作権」、「営業秘密」の3つの問題がある。

 

契約違反について

まず、ザハとJSC、ザハと大成建設、それぞれとの間の契約違反の問題がある。

いずれの契約においても、CADデータなどの知財や情報の取扱いに関する何らかの条項があると考えられるので、それについて契約違反が成立するかが問題となる。

契約違反の有無については、契約内容が明らかになっていないので何とも言えない。

両契約における準拠法や管轄についても気になるところで、ザハとJSCとの間の契約における準拠法は日本法、管轄は東京となっている可能性が高いが、ザハと大成建設との間の契約における準拠法は英国法、管轄はロンドン、あるいは国際仲裁となっている可能性があるのではないかと思う。

 

 

著作権侵害について

次に、ザハ案と隈案の類似について著作権侵害が成立するかが問題となる。

建築の著作物は、建築芸術と言えるような特殊なものを除いて、原則として著作物性が否定される。これは、建築物の形象は、建築物としての本来の用途・機能の制約の上に設計されるため、もともと表現の選択の幅が狭いからである。また、既存のデザインの改良による積み重ねで発展していくものであるから、著作権法の緩やかな要件で著作者人格権の保護や著作権による長期の独占を認めることはかえって後行の建築デザインの発展に支障をきたすことになりかねない(島並・上野・横山『著作権法入門』45P)。

ザハ案は、アーチなどの外観については問題なく「建築の著作物」として認められるだろう(「建築の著作物」として認められるためには建築が完成していることを要しない)。
ただし、隈案との類似が問題になっているのは、アーチなどの外観ではなく、スタジアムの座席、柱、傾斜などレイアウトの設計部分であり、この点が「建築の著作物」として認められるかは判断が難しい。なぜなら、スタジアムのレイアウトは、競技場としての用途・機能の制約のうえに設計されているため、より表現の幅が狭いと考えられるからである。仮に、スタジアムのレイアウト部分が「建築の著作物」として認められたとしても、「薄い著作権」の考え方からしてデッドコピーに近い場合にしか著作権侵害は成立しない。本件がこの「デッドコピーに近い場合」に該当するかも判断が難しい。

 
 

また、建築の著作権とは別に図形(図面)の著作権侵害についても別途検討が必要になろう(これについては競技場の製図法としてザハ案の図面に創作性が認められるかという問題になる)。

 

その他、下記の記事で栗原潔氏が指摘しているように、営業秘密に関する不正競争防止法違反の問題もあるが、ザハ案、隈案双方に大成建設が入っている以上、この問題は冒頭の契約違反の問題に実質的に吸収されてしまうのではないだろうか。

 

bylines.news.yahoo.co.jp

 

解決に向けて 

法律問題から少し離れて本問題の解決を考えると、下記記事で大島和人氏が提案しているように、ザハも共同設計者としてクレジットするなど、ザハ側に一定の敬意を払った形での解決を期待したいところである(が、ここまでの経緯に鑑みると期待はできない)。

ザハ案にも関わっていた大成建設が間を取り持ちするのがベターであろうが、隈氏と組んで再コンペにアプライしている時点でザハと話し合いをつけているのかと思ったらそうではなかったらしいことが露呈してしまった以上、大成建設は訴訟リスクも見込んで隈案で再コンペに臨んだ可能性も十分にある。ザハが工事中止の仮処分を申し立ててきた場合、工事の遅延が大きな問題となるが、大成建設は仮処分は認められないだろうという算段なのだろうか。

 
 

現在ぼくも某建築の著作権に関する訴訟を抱えていることもあって、頭の整理のためにも書いてみた。この件は今後も継続的にウォッチしていきたい。

 

 

<1/22追記>

1/21にNoiz Architectsで行った「建築/コンピュテーショナルデザイン/法」と題するレクチャーにおいて、本件についても触れたところ、来場者の方から様々なご示唆をいただいた。


当日のプレゼン資料:

docs.google.com

 

ザハ案の著作物性について、印象的なキールアーチを含むファサード部分とスタジアム部分の著作物を1個の著作物と捉えるのか、別個の著作物として分離できるのかはなかなか難しい問題である(いわゆる著作物の個数論)。

これは建築物の設計に不可欠な「意匠」と「構造」の区別と一体性をどのように捉えるかという問題であるが、昨今の3D CADやBIM(Building Information Modeling)を活用したコンピュテーショナル・デザインにおいてはさらに混沌とした課題を法律面でも投げかけているように思われる。

顧問契約について

「顧問契約の内容を教えてほしい」というご要望を時々いただくので、「ここを見てください」と言えるように、顧問契約についてのぼくの考えについて簡単に書いてみる。

 

弁護士の契約形態

 

弁護士とクライアント(依頼者・顧客)との契約形態は、大きく分けて2種類ある。

 

1つは、ぼくが「スポット」と呼んでいる形態で、「この契約書をレヴューしてくれ」「こういう契約書をドラフトしてくれ」、「このお金を回収してくれ」、「こういう紛争を解決してくれ」など、案件ごとに単発でのご依頼を受ける場合。

この場合、フィー(報酬)はタイムチャージ(ぼくのいまのタイムチャージは15,000円/h ※2016年4月から20,000円/hになりました)で請求させていただくのが原則であるが、案件によっては、着手時にいただく着手金と終了時にいただく報酬に分けてフィーをいただくこともある。


もう1つは、いわゆる「顧問契約」と呼ばれる形態で、月ごとに一定の顧問料をいただく代わりに、契約書のレヴューやドラフト、法律相談など、様々な法律業務(顧問業務)に対応するという場合である。

 

顧問契約のメリット

 

クライアントにとっての顧問契約のメリットについては、以下のようなものが一般的に挙げられる。

  1. いつでも相談できる(夜間、休日など通常の業務時間外であっても優先的に対応)(△)
  2. 気軽に相談できる(◎)
  3. 普段から密に、継続的にご相談いただくことにより、より的確かつ丁寧な回答やソリューションが提供される(◎)
  4. 紛争の予防、紛争の早期解決になる(△)
  5. 取引先や金融機関、従業員等との関係で社会的信用を増加させる(◯?)
  6. 反社会的勢力の排除の効果(△?)
  7. 訴訟等を受任した場合の弁護士費用の減額(△)
  8. 自社に法務部を設置するよりも安価(法務のアウトソーシング)(◯)
  9. 法務人材の教育(◯)
  10. 司法書士行政書士、税理士などの他の専門家との連携(△)

 

各事項の後ろに◯、△などを記載しているが、これはぼくが本当にメリットなのかどうなのか、という所感を示している。

いずれのメリットも否定はしないが、公平に見て「それって本当に顧問契約のメリットになのかな?」と思うものもなくはない。

例えば、1については、たしかに他の案件よりもできるかぎり優先して着手するようにはしているが、ぼくの場合でいえば、昼夜、土日祝日の区別はあまりないので、いつでも対応しているので、顧問先かそうでないかであまり変わりがない(もっとも、これはぼくの働き方のせいかもしれない)。

夜間、休日でもクライアントが依頼するときに「申し訳ないなあ」とクライアントが思わないことがメリットなんだ、という言い方もあるだろうが、そんな風に思うクライアントはそもそもあまりいないのではないだろうか。その他の事項も今の時代において「顧問契約だからこそ」というものでもないような気がする(5は上場準備のタイミングで証券会社から求められるケースは多い)。

 

弁護士との顧問契約はよく保険に喩えられる。会社の経費としてはそんなに高くはないので、ひとまず入っておくという考え方をするクライアントは一定数いる。

そこで、弁護士サイドは顧問契約のメリットをこぞってアピールするのだが、結局、上記のとおりメリットとして本当にどれだけ実効的なのかは疑問なものも多い。

結局のところ、クライアントから見て、2の価値をどれだけ高く考えるか、というあたりに集約されるのかなあ、というのがぼくの所感である。最近出てきている月3000円くらいの超低価格の顧問契約は、もちろん3000円という金額でも従来の顧問契約のように何でもしてもらえるという契約ではなく、ひとまずこの「気軽さ」だけを低価格で提供して、クライアントを囲い込む戦略と言えるだろう。

一方、弁護士の目線で見ると、3の価値は大きいのかなと思う。クライアントの業務に精通すれば成果物のイメージをしやすく、「この成果物の権利はこっち、後は向こう」と切り分けもできるし、「このクライアントは受託でも成果物の知的財産権は譲渡しない」とそれまでの関係性で把握していれば、その分、素早く、的確に契約書のレヴューができたりする。

 

顧問契約のデメリット

 

では、顧問契約のデメリットはなんだろうか。弁護士の多くはこの点に触れないのだが、フェアではない。

顧問契約のデメリットは、端的に言って、支払っている顧問料に見合っただけの仕事がない場合、お金を支払いすぎてしまうことになる、という点だろう。

感覚的には、毎月1,2通の契約書のレヴューが定期的に発生する場合には顧問契約を検討してもよい時期ではないだろうか。

慣れない人が時間をかけて確認し、不安なままでいるよりは、プロにアウトソーシングしていただいたほうがよいのではないかと思うことは多い。

 

ぼくの顧問契約

 

ぼくの顧問契約は、現在、以下のようなシンプルな内容である。

  • 月額6万円7万円(税別)
  • 月5時間まで稼働
  • 月5時間を超過した部分は、通常のタイムチャージである15,00020,000円(税別)/hを請求させていただく

ぼくのタイムチャージで5時間働くと750,000100,000円になるが、それが6万円にディスカウントされ、15,00040,000円お得になる、というのが、ぼくの顧問契約のメリットである。

上記の通り、ぼくは顧問契約というもののメリットについてまだ自信を持って説明できていないので、クライアントにオススメするためにはこのような明快なメリットを持つ必要があった。

なお、顧問料は、独立1年目は月3万円、2年目は月4万円、3年目は月5万円、今年から月6万円と毎年1万円ずつ上げている。来年は余程のことがない限り月7万円になっているはずだ(そう願う)。

これは設立当初は低価格で事業資金を確保する目的があった一方で、弁護士として毎年顧問料を1万円ずつ上げていくことができるくらい、自らの価値を上げることを課しているという意味もある。

やや特殊な条項としては、

  • ウェブサイトなどで顧問弁護士として水野またはシティライツ法律事務所の名前を公表してよい
  • ぼくもクライアントとの顧問契約締結の事実と関与した案件を公表してよい(ただし、周知になったものに限り)
  • PDFのやり取りで契約成立

というのがあるが、まあ瑣末な話ではある。

詳細はこちらで

 

 

顧問契約を検討する際に注意すること

 

顧問契約をする場合、いきなり顧問契約をするのはおすすめしない。弁護士との仕事も人間関係なのだから、当然のことながら相性がある。その意味では、いきなり顧問契約をすすめてくる弁護士には注意したほうがよいだろう。ぼくの場合、まずはスポットで何件か仕事をやってみて、相性が悪くなくて、毎月一定の仕事があるようであれば、顧問契約を勧めることにしている。

現在のぼくの仕事は、顧問契約をしているクライアントの仕事とスポットのクライアントの仕事がそれぞれちょうど半分くらいだろうか。弁護士業として、顧問契約とスポットの仕事の割合をどうしていくべきか、という点は、顧問契約をできるだけ多くすれば経営が安定する一方で、仕事内容が硬直化しやすいというデメリットもあり、なかなか考えてしまうところではある。

スポットでも長期で信頼関係を築けているクライアントもたくさんいるし、顧問契約ありきではなく、クライアントのためにメリットがある場合にはおすすめするようにしたい。

なお、本ポストで主にイメージしているのは、これから顧問契約を検討する中小企業や個人で、上場準備や上場後の企業はまた別の考慮がある。今後また思うところがあれば書いてみたい。

 


<1/17追記>

 弁護士の柴田健太郎さん(@overbody_bizlaw)から、「個人的には企業にとって顧問契約の一番の意味はスポット依頼たりえないちょっとしたご相談が多くある場合であると思います。」との意見をいただいた。たしかに、スポットとして依頼するか否か微妙な相談にこそ、紛争の早期解決の萌芽があったりするので、なるほどと思った。

<1/17追記>

 弁護士の伊藤雅浩さん(@redipsjp)からも「敵にしたくない弁護士を抱えることができる」というメリットのご意見もいただきました。やっぱりそういう弁護士がいるんですね(別の意味ではいま(以下略))。

 

祖父

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祖父・金子繁治が1/12に亡くなった。

95歳だった。

1/2に会ったときも「幸せな人生だった」と言っていたが、ぼくからもそのように見えた。

 
祖父は海軍で特攻隊員として訓練を受け、その後定年まで自衛隊にいた。
退役後は趣味で山を登り、絵を描き続けた。
 
様々な思い出があるが、何度も聞かされた戦争体験と一緒に富士山に登ったことがやはり思い出深い。
 
最近、地元藤沢で個展を開いた。
個展は思わぬ人気で展示期間が延長され、現在も行われているという。

東京新聞:95歳、郷土描き10年 藤沢の金子さん初個展:神奈川(TOKYO Web)

 
ありがとうございました。

2016謹賀新年、そして独立から3年

2013年1月にシティライツ法律事務所を開設して、今日でちょうど3年が経過した。

 

2013年6月に平林健吾弁護士がパートナーとして参画し、2015年4月には倉﨑伸一朗弁護士がアソシエイトとして加入した。これにより弊所のチームは3名体制となった。

 

設立当初のこの3年間は、弁護士業界における法律事務所あるいは弁護士として、そして日本のカルチャー、エンターテインメント、アート分野における法律家として、自らの仕事と立ち位置をいかに作るかということに無我夢中だった。狂信的だったと言ってもよいと思う。

もちろん、いずれもまだまだ十分ではないが、幸いなことに顧問先を含む奇特なクライアントのみなさまや、友人知人などのご支援のおかげもあり、小さいながらも着実に成長できているという実感もある。

 

次の3年に向けて、自らの活動や思考を少しでも俯瞰し、また可視化できたらと思い、このブログを始めることにした。

どこまで続けることができるか甚だ自信はないが、マイペースに進めていきたい。